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紙ツイッター2013 [ちょっぴり小話]

(擬人化注意)

アウフ・ラウフの話
夕闇カーニバルの設営中の話
赤眼パロの話


研究発表会2013での個人企画「紙ツイッター
1頁140字制限で短い文を書き、お題を出してくださった方に小冊子の形でお渡ししました
冬を迎えたのを機に、公開させていただきます


(縦読み、見開きを前提とした書き方をしており、多少読みにくいかと思われます)

  
* * *


(移動サーカス・夕闇カーニバルの代表者、紫ジュラのアウフ・ラウフの話)




/memo ラベンダーの午睡



「アウフ・ラウフさん。ギモーヴです」
返事はない。僕は一度首を捻って、耳にかけていた無音のヘッドホンを首にかけ直した。もう一度呼ぶ、返事はない。戻ろうかとも思ったけど、
「・・・入りますよ」
呼び出しの紙飛行機を手に、僕は垂れた布をくぐった。白いテントの中は外と全く空気が違っている。

何か技を使っているのかもしれない。からりとした暑さやおがくずの匂いが急に遠のいたように感じる。日陰なのもあるんだろう、涼しくて、何か不思議な香りがした。甘くて鼻に残る。少し爽やか。ラベンダーだ、と気づいたのは、白クロスのテーブルがラベンダークロスのテーブルに変わっていたからだ。

そのテーブルで、アウフ・ラウフさんは目を閉じていた。いつもは伸びている高い背を丸めて、少しうつむいて、考え込んでいるようにも見える。テーブルには飲みかけのティーカップがあって、書きあがった手紙は封筒に入ったまま封がされていなくて、隣には封函用のスタンプと紫色の蝋燭が置かれている。

この人がうたた寝をしているのは珍しいから、声をかけるのを忘れてしまった。ラベンダーの香りと薄紫のクロス。眠っている紫色の彼。外の騒がしさは聞こえているのに、不思議なほどに静かな光景だった。その広い背中に上着をかけようか迷う。今は夏の夕方だし、何よりも、この空間を壊したくない。

あ、と思った。アウフ・ラウフさんの頭がわずかに揺れる。紫色の睫が震えて、黄色くない目が覗く。黄色くない、それしかわからなかった。すぐに彼の瞳はいつもの黄色を取り戻し、僕の存在に気付いて照れくさそうに微笑む。
「・・・みっともないところを見られてしまいましたね」
穏やかな声に首を振った。

「いえ。僕も今来たところです。・・・この香りはラベンダーですか?」
「ええ、そうなんです。ヨウルトがラベンダーティーを勧めてくれましてね。今の乱れが落ち着くからと」
「ヨウルトルットゥが、ですか」
僕は災厄の占い師の人形みたいな白い顔を思い出す。彼に関して良い噂は聞かないけれど、

アウフ・ラウフさんには好意的に接しているらしい。
それはわかる。僕も含めて、みんな、アウフ・ラウフさんを慕ってここに集まっている。
「良かったら一緒にラベンダーティーを飲みませんか?少し癖がありますが、確かに心が落ち着くように思います。そして、今回の反省点と、次回について話し合いましょう」

アウフ・ラウフさんの言葉にぎくりとする。確かに昨日の公演で、僕は失敗した。それもピエロの笑いに変えたかったけれど、うまくいかなかった。僕がどれだけ落ち込んだか!あの時のショックを思い出す。僕の自信はピエロでいることだけに支えられているのに。アウフ・ラウフさんがカップを差し出した。

僕はそれを受け取り、一口飲んだ。暗い、絶望にも似た気持ちを、砂糖の入ったラベンダーティーと、アウフ・ラウフさんの微笑みは、確かにそっと癒してくれる。
「落ち着いたら、聞かせてください」
アウフ・ラウフさんはそう言った。そしてラベンダーの砂糖菓子を取り、自分のカップに優しく溶かし入れた。







  
* * *


(移動サーカス・夕闇カーニバルの慌ただしい設営の話)





/memo 鉛筆と笑顔のスケッチ



ヨウルトルットゥが木の椅子に座っている。その目の前に、同じようにして、木の椅子に少女が座っている。鉛筆を持ち、スケッチブックを開いて、大きな目でまるで睨むように、スケッチブックと青年を交互に見つめている。
「むむむむむ」
「口で呻るな」
資材を担いだアイアシェッケが横を通りながら睨む。

ああ睨むってこういう事なんだあ、と、外野その一ことロズビラバンは思う。サングラスの奥から刃物で突き刺すような彼の視線はいちいち怖すぎる。睨まれたロリーはかちりと固まっていた。小鳥とかカエルとか、お互いそんな種類だから余計に怖いのかもしれない。いやまあ、鳥はトカゲ食べるんだけど。

カーニバルの設営が始まるまであと数日だった。今回の開催地となる島が決まり、メンバーが集まり始め、しかしまだ実際に設営を始めるに至る前の、完成形のイメージを固める段階。
今回のポスターには似顔絵を使うことになっていた。古めかしいサーカスのように写実的なものがいいのか、少し子供らしく

ポップなものがいいのか、それとも別のデフォルメでアーティスティックに仕上げた方がいいのか決めかねたまま、美術担当の二人は食堂にメンバーを呼んではスケッチをしていた。
「本当に微動だにしないのね」
先に描き終えたボネがしみじみと呟く。
「わかるわ。人形を相手にしているみたいだって」

「わかってくれますかボネお姉様、俺の日々のやるせなさ。無機質感」
「わかるわー……石膏像みたいね。倉庫に置いておいたら間違えそう」
「そこまでですかお姉様」
ボネは小さく笑った。
「モデルには丁度いいわ。女性的だけど筋肉もあるのね。今度、脱いでくれないかしら」
「お姉様あああ!!!!??」

思わず叫ぶロズビラバンに薄い微笑みを残し、長い髪を揺らしてボネは立ち上がった。
「ロリー?そろそろできた?」
「ボネさん待ってください!表情がないって逆に難しいって言うかゴマカシがきかないって言うか、むつかしいです!」
「見たままを描けばいいのよ」
「そうですけど、何か違うのです!」

うー、と呻りながら、ロリーは上目づかいでヨウルトルットゥを見つめ、涙目で鉛筆を握る。
「すみません!この前はすぐにうまく描けたのです。デフォルメだからかもです。スケッチは苦手です、占い師さん、あとちょっとだけごめんなさい!」
「謝る必要はない」
「ひい!すみません!」
発言が余計に恐怖を

煽ったらしく、ロリーはますます青ざめる。
「描けそうにないわね」
ベレー帽をくるりと回したボネが呟くのを聞いて、ロズビラバンも立ち上がった。これ以上伸びると、設営の打ち合わせで待っているアイアシェッケがイラつき始める。というか既にイラついている。
「よし!ロリーの嬢ちゃん俺に任せろ!」

鼻の頭にそばかすの散った少女の、困り果てた青い目がロズビラバンを映した。
「あれだよな?表情がないから悪いんだよな?」
ロズビラバンはヨウルトルットゥの椅子の裏に回った。腕を回し、冷たい石膏のようなほっぺたを、無理矢理むにゅっと持ち上げる。笑いが起こった。口元を隠し後ろを向いて

しまったロリー、遠慮なく笑うボネ、震えを隠せないアイアシェッケ。
きょとんとした翠の目の占い師が、ゆっくり二回、瞬きをした。







  
* * *


(赤眼パロ/もしもギリヴっこが吸血鬼だったら?というパロディ設定→参照
(クリームパフとカーディナル、吸血鬼たちの悪い遊び)(閲覧注意)




/memo 赤の遊戯



窓を塞がれ、蝋燭の灯された薄暗い部屋の中で、影を持たない二人は右手に持ったワイングラスを掲げた。
赤ワインのためのたっぷりとした胴回りのグラスの中では、赤ワインに似た暗赤色の液体が僅かな粘り気を帯びて揺れている。芳香は生臭く、腐った果物のように甘美で、童話のように残酷だった。


「乾杯」
右目に片眼鏡をかけた背の高い男、クリームパフが温和そうな目を細めて微笑み、
「乾杯」
肩幅のあるコートを纏った筋肉質な男、カーディナルが凄味のある顔に愉快そうな笑みを浮かべた。
向かい合った二人は同時にグラスを傾けて、滴る液をその唇へと含んだ。すぐに青白い喉へは通さず、味わう。

「・・・若い女だ」
「・・・うん、男性だね」
二人は口を開いた。互いの言葉を聞いているような、聞いていないような素振りで語り、時折グラスに唇をつける。
「処女じゃねェな」
「菜食主義者だと思う」
「死にたてだ」
「同じく」
「ハッ、悪ィ味がする・・・犯罪者か?」
「舌がぴりぴりする。聖職者に近いのかな」

時折眉を寄せ、深く考えながら、言葉を繋ぐ。静かに燃える蝋の雫が燭台の皿へ流れ落ち、二人は同時にグラスを置いた。
頬杖をついたカーディナルが赤い爪でテーブルを叩き、伏せたカードを捲る前のように宣言する。
「売春婦だ。生粋の赤毛のな」
クリームパフも後に続いた。
「年配の大学教授でどうだろう」

短い沈黙の後、カーディナルは唇を厭らしく歪めて頷いた。クリームパフもまた、肩を竦めて天井を仰ぐ。
「まいったな、どうしてそこまでわかるんだい?」
「あァ、ここまで不味い血は久しぶりだ・・・すぐにわかる」
低い声が呻るように響いた。
「俺に赤毛の淫売を宛がうとは良い度胸だ」
ぞっとするほど

赤い髪の間から覗く凶暴な目に臆するでもなく、クリームパフは僅かに液の残ったグラスを掲げて見せる。
「そっちこそ。よくこんな血を手に入れたね。司祭ほど強力ではないとはいえ、聖職者の気配がする。僕じゃなきゃ滅されてるかもしれないよ」
「お前だから用意したのさ」
「悪趣味だね」
「テメェがな」

楽しげに吐き捨てた声に、クリームパフはくすくすと笑った。
「これで、今回も引き分けだね。なかなか勝負がつかないな」
言いながら席を立ち、重く塞がれていた窓を軽い身振りでこじ開ける。
外には森が広がっていた。月光が皓々と照らしている。遠くに見えるはずの町は既に寝静まり、光一つ見えていない。

紫の夜風が吸血鬼の髪を柔らかく揺らす。
「さあ、カーディナル。口直しに行こうか。喉が渇く、綺麗な満月だよ・・・」







  
* * *






心から楽しく書かせていただきました。ありがとうございました。
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